この度、biscuit gallery(新宿区)では、現代美術作家、名取藍による個展「undercurrent」を開催いたします。
会期は、2026年1月10日(土)から1月25日(日)まで。
初日の1月10日(土) 16:00-19:00に、オープニングパーティーを開催いたします。作家も在廊します。

biscuit galleryでは軽井沢での開催に続く2度目の個展となります。本展では、これまで取り組んできたペインティング作品に加え、作家初となるセラミック彫刻の展示も行います。
また、名取藍は2025年12月にベルギーでのグループ展、2026年にはフランスでの個展を控えており、今後の活躍が期待される作家です。
「undercurrent」
“Undercurrent” という言葉には、
水面下を静かに流れる底流と、表には見えない心の奥の感情や思考、暗い響きや微かな気配といった比喩的な意味が重なっています。
ときに抑えられ、ときに静かに揺らぐ「内側の流れ」。
私はその見えない動きに強く惹かれてきました。“Blue”シリーズから、より色を抑えた “Blueness” シリーズを描き始めてから、作品をきっかけに多くの方と出会い、つながりが生まれました。そのコミュニケーションは、絵を描く力そのものを大きく押し広げてくれました。
かつては、妹をモデルにした半ば架空の人物像を描いていましたが、いま描かれる顔は、作品を見てくださる方々、そして自分自身の内側を映す複合的な存在へと変化し続けています。
私の絵に込めた青色の“揺れ”や“刹那の強さ”が、SNSを通じてさまざまな地域の方々へ届き、受け止められている。そのことは、今でも小さな奇跡のように思えます。その青い思いは、夜の静寂を漂い、暗闇の中で灯りを探し続ける旅人の姿として私の中に立ち上がり、《Night and wonderer》という新たなシリーズへとつながりました。
一枚を描くごとに、より親密に、より深く、自分の内側の底流に触れていく——その時間は、作品と私自身を静かに変えていきました。今回の個展 “undercurrent” は、私の絵や立体作品を見てくださる方と、ブルーという色に込めた思いが、水面下の流れのように行き交う場所であってほしいと願いを込めています。
作品を介して、あなたの心の奥にひそむ静かな流れと、私の底流がそっと触れ合う。
そんな時間と空間をお届けできれば幸いです。
名取 藍|Ai Natori
海外のオーディエンスから高い人気を誇る名取だが、彼女の作品に満ちる青色が、名に由来する「藍」であることを知らないファンも多いという事実はどこか興味深い。藍色は日本では「ジャパンブルー」とも呼ばれ、特有の文化と美意識を象徴する色とされてきた。たとえその由来を知らなくとも、彼らは名取の作品を通して、日本的な感覚を自然と感じ取っているのだろう。
三木富雄が耳の形象に執拗なまでにこだわり続け、草間彌生がドットに執着したように、名取は藍色に魅せられ、描き続ける。その一途な姿勢は、彼女の制作の在り方そのものを映し出している。
名取は青色(藍色)を「生と死の色*」と語る。生命の始まりである海の青、命が昇っていく空の青。彼女が描き出す少女たちの儚い表情と、その奥に潜む危うさは、まさにその青色が揺らめかせる境界に宿っているのかもしれない。青色はしばしば、美術において「時間や記憶の蓄積を象徴する色」として扱われるというが、そう考えると、名取が人物を青色で描くことは必然的な選択だったともいえる。
本展では、新たな試みとして陶器作品を発表する。藍色は高温にも退色にも強く、窯の炎の中でも色が変質しにくい。そのため古くから「不変性」や「永続性」を象徴する色とされてきた。名取の出身地である佐賀の有田焼に藍色が広く用いられてきたことも見逃せない。絵画を飛び越えて陶という媒体へと広げた名取の表現は、藍色が持つ象徴性をより豊かに響かせ、彼女の作品世界にいっそうの説得力をもたらすだろう。
最後に、意外と語られてこなかった名取のモチーフ「少女」について触れておきたい。
名取が美術に出会ったのは、地元で教室を開いていた野田勲の下で絵を学び始めた10歳の頃。旧石橋美術館(久留米)で偶然目にした黒田清輝《野辺》に強く心を奪われ、その画面に登場する少女の存在が彼女の表現に大きな影響を与えたという。また、幼少期から体が強くなかった名取は、家族との結びつきが人一倍深かった。とりわけ仲の良かった妹は、彼女にとって特別な存在であり、画家として初めて意識的に描いた人物も妹だった。子ども時代に抱いた想いと影響は、今もなお彼女の内側に息づいている。それらは描くという行為を通して昇華され、少女へと向けられた明るい願いと感謝となって作品の中に形を成すのである。2024年のbiscuit gallery karuizawaでの個展を経て、名取は本展でさらなる深化を果たす。藍色が導く新たな物語の展開に、ぜひ注目してほしい。
* artismインタビューより(IG @ artism.___)
biscuit gallery
名取 藍|Ai Natori
佐賀県出身
武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。
幼少期より行動美術会画家、野田勲氏より絵画を学ぶ。よりアブストラクトな表現方法を求め、武蔵野美術大学映像学科へ進学。VJ、インスタレーション、パフォーマンスと表現の領域を広げる。インスタレーション作品は「インフォメーションアートの想像力展」東京都写真美術館でも展示される。2011年春、原点に戻り、ドローイングによる制作を再始動後、KATHARINE HAMNETT LAB DESIGN AWARDを受賞、YOUNG ART TAIPEI にて新人賞を受賞。 Carrousel du Louvreでの展示をはじめ海外を中心に活動中。
【開催概要】
名取藍 個展
「undercurrent」
会場:biscuit gallery
会期:2026年1月10日(土)〜1月25日(日)
オープニングパーティー:1/10 (土) 16:00-19:00
時間:13:00〜19:00 ※月〜水休み
入場:無料
主催:biscuit gallery