• Instagram
  • FaceBook

biscuit gallery is a commercial gallery to handle led
by a young writer of domestic and foreign contemporary art.

 

永田優美(Yumi Nagata)個展「positive」


この度、biscuit galleryでは9月9日から9月19日の会期にて、永田優美の個展「positive」を開催致します。

日本美術やサブカルチャーにおいて展開されてきた少女表現を手掛かりに、「愛する/愛される」「少女を描く自己とそれを否定する自己」「変身願望」「承認願望」等をストレートに、臆することなく現代絵画の世界にリフレクトさせる永田優美を、今回は本人とっては初となる個展という形式でご紹介致します。

会場では新作ペインティング35点を、3フロアそれぞれに「positive」「neutral」「negative」とテーマ設定を設け、各フロアに展示する作品を通して「少女を描いている自分」を会場に映し出し、現代絵画に対する永田自身の関わり方を共有し、考察する狙いがあります。

永田優美は1997年東京都出身、2021年に多摩美術大学 絵画学科日本画専攻を卒業し、現在は東京を拠点に制作を行っています。永田の作品は、一見すると少女を耽美的あるいは戯画的に描いた日本美術における日本画表現の系統を汲んでいるかのようにも見えますが、その背後にあるものとして、本人が「アニメーション、漫画、そしてこれまで自分の描く日本画で用いてきた《女の子》は、現代美術の世界に入ったとたん、忌避されがちなモチーフのように感じた」と語るように、一貫して絵画シーンにおけるモチーフとしての少女の取り扱いとその受容について向き合い、また「《女の子》を描きたい自分とそれを否定する自分」という、どのようにして自己の文化背景と美術史的コンテクストが接続され得るかを真っ向から考える姿勢があります。

 

永田は「もしも自分の作品を、現代的な意味での絵画として描くのなら、きっとそこには《こうでなくていけない》という文脈の規制がどうして生まれてしまう」と話すように、彼女は時として「現代絵画としてあるべき振る舞い」と自身が幼い頃から抱き続けてきた「女の子を描く」という苛烈なほどに純朴な感情との間に立ち、その美術的なドラマツルギーとの距離に戸惑いながら制作を続けていますが、そうした彼女自身の問題を俯瞰するとき、そこには同世代の美術家にも通底しうる一つの物語、つまりスーパーフラット等の日本の美術動向に後続する世代として、自身が当たり前のように受容し、自身の根幹を形成する要素となっているサブカルチャーやネットカルチャーをどのような手法と理論で新しく作品化し、歴史化していくかという、それらの文化を勃興期ではなく定着期に、一つの自然として受け入れてきた世代にとって共通するような問題が見て取れます。

 

今回の展示作品について、永田はそれらを『layer』シリーズと名付けますが、これは彼女が使用する岩絵具等によって生まれる固有のレイヤー的質感、またコスプレイヤーのスラングである『レイヤー』からとったダブルミーニングのタイトルです。永田は「描かれる少女たち」は彼女自身の分身/アバターであり、ある種のセルフポートレートだと話しますが、その成り代わりの精神、もしくは愛される存在に自らを変えていこうとする変身願望も永田の作品を特有のものたらしめるものと言えます。ときに被り物を身に付け、ときにデフォルメされた頭身に縮められ、ときに奇怪な衣装に身を包み、ときにゴスサブカルチャー的格好をした少女たちがたたずむ画面は、現実から遠のいた場所にある、言わば永田個人の世界とその物語を一人語りするようにも見えるかもしれません。とはいえ、それをまたも世代に照らし合わせるならば、アニメーションや漫画が当たり前にあった世代の彼女たちにとっては率直に何かを語るよりも物語としてのコミュニケーションの方がよりネイティブな手法であることの証左を示し、そしてその世代に共通するような自己言及性、「愛されたい/嫌われたくない」という世代的なコミュニケーションのあり方や自我意識が見えてくるようにも感じられます。だからこそ、永田の作品は、もちろん日本美術のある系譜を俯瞰的に捉えながらも、美術史に奉仕するための美術を成すというより、むしろかつてフェリックス・ゴンザレス=トレスがパートナーを亡くしたことによる哀しみの共有を鑑賞者と行う作品を提示したように、彼女自身が感じている世界の体温を物語(=キャラクター)として共有し、繋がり、そうしながら指針がないままに流れていく現代的な存在感や生きることそのものに対応していくための方法を提示するものとも言えるのではないでしょうか。そして、それは明らかに時代を内部から見つめる者の一つの証言であり、今日の現代美術において彼女たちの世代がなし得ることの模索と抵抗が潜んでいるようにも思えるのです。

奥岡新蔵

アーティストプロフィール

永田優美 Yumi Nagata

https://biscuitgallery.com/yumi-nagata/

-略歴-
1997年東京都生まれ
2021年多摩美術大学 絵画学科日本画専攻卒業

グループ展
2020年
横浜高島屋7階美術画廊「美人画づくし展-令和-」
2019年
横浜galleryARK「山本冬彦推薦作家による自画像展2019」

受賞歴
2019年
第5回 石本正 日本画大賞展 入選
2018年
国立新美術館「アジア創造美術展2018」新人賞
多摩美術大学「五美術大学交流展2018」株式会社 中里賞

開催概要

永田優美 個展
「positive」

会場:biscuit gallery 1階〜3階
会期:2021年9⽉9⽇(⽊)〜9⽉19⽇(⽇)
時間:13:00〜19:00(土日:12:00〜18:00)
※月〜水曜日は休廊
入場:無料
主催:biscuit gallery